話はつまらない、性格は卑屈、見た目も……。まるでいいところのない落語家が主人公の、不思議な映画が公開された。
監督の鈴木太一は、知り合いの野辺富三に同じにおいをかぎとっていた。「さえない」。蜷川幸雄演出の舞台出演が長く、いい人だけど狂気を帯びるこの役者を主役にした映画を撮りたくなり、2世落語家を造形した。
野辺が扮する太紋は50歳で独身。古典落語でならしたが物忘れの激しくなった父(渡辺哲)を介護する。名跡を継いでも高座は笑いも拍手も起きない。元彼女(片岡礼子)ともちぐはぐだ。「女性から、父親から、落語から逃げている」
しまいには、VRヘッドセットを付けて官能の映像に没入する。服を脱がずに心を全裸にしているようだ。「どれだけ自分の姿をさらけ出せるか」と、立ち直ろうとしないマイナス思考に徹する。
袋小路の太紋の落語を聴いた若手漫才師の希子が、ネタに使いたくて「弟子入り」する。演じる辻凪子は「頭で考えてるお笑いより、笑わせようとしてない人生が面白い」。大阪府出身のお笑い好きは、懐が深い。
野辺はカルチャー教室に半年…